筋肉の働き

筋肉の重要性


身体は骨格で支えられてこそしっかり立つことが出来ますので骨の役割は大事なものですが、それ自体は理科室にある標本のようにバラバラなものですし、骨自体が曲がる訳でもありません。
骨はカルシウムが固く締まっていた方が良いわけで、柔らかい骨が良いなどとは聞いたことがありません。
その骨を有機的に動かすのが腱や筋肉や筋膜ですが便宜上筋肉と言ってしまいます。

身体の柔らかさとは筋肉の柔らかさでもあります。
椎間板や股関節、膝関節などの故障は、多くの場合筋肉の硬さからくるものです。
そして筋肉の硬さや衰えは多くの場合、動かさないことによる筋肉の退化が原因といわれています。

朝起きた時には動きが悪いのに、活動を始めると楽になってくる経験はだれにもあると思います。
身体の柔軟性を得るには動かす以外に方法はありません。
近年、筋肉には免疫機能を高める働きもあることが言われていますが、そういう健康面は別にしてもダンスの動きにとってその役割は実に重要な存在です。

アウターマッスルとインナーマッスル

外側にあるアウターの筋肉はビジュアル的に美しく訴えかける部分が大きいですが、必要以上にあっても動きを阻害しかねません。
体幹をしっかりと直立させたり動かしたりするにはインナーマッスルを意識して行きたいものです。

これにより疲れにくく、少ないエネルギーで動き続けることが容易になります。
ダンスに限らず全てのスポーツや武道などで提唱され、研究が続けられているところですが、私も格段に留意して行きたいと思います。

今、私がイメージし 目指したいと思うことは自分の固いアウターを少しでも柔軟にすることです。
その先に外の殻が開かれてインナーが現れ、内面からの表現を可能にできると考えています。
しかしながら最近やっとかかりつけのマッサージ師さんから”外側がほぐれ、ようやく内側の筋肉に触れるようになりましたね”と言われる段階で、自分としては進歩ですがまだまだの状態です。

移動や回転

一部のラテンダンスは除きますが、社交ダンスにあって他のダンスにない大きな特徴と言えば広いボールルームを大きく移動することです。

アイスダンスなどは滑って移動しているので一歩一歩動力を伝えているのではないと考えますし、他のペアダンスやバレエ、ジャズダンス等私の知る限りそれ程大きな移動はありません。

ダンスにとって実に大事な要素である移動ですが、同時に回転も頻繁に行われます。
何も4回転などと言わなくても、1/4, 1 /2,  1/1回転はざらにあります。
この移動と回転を滑らかにするために、特にインナーの筋肉の働きが不可欠です。

イメージを表現

立つ、歩く、引き上げる、曲げる等全てにおいて柔軟に動いてくれてこそ、イメージしたダンスに近づくことが出来ます。
その為の張りがあって柔軟な筋肉を欲しいのは私だけではないと思いますが、更に難しいのは良い意味での筋肉の”ゆるみ”です。

関節を緩めるのと曲げるのは違いますし、だらーんと脱力するのでもありません。
筋肉がリラックスする状態を感じるのは大変に難しいと思います。
この”ゆるみ”の感覚は後述する”呼吸”によって得られると私は考えています。
緊張で息を詰めると筋肉が硬直することは誰しもご存知のことです。
正しい呼吸によって筋肉がリラックス出来れば、よりイメージに近い動きが可能になります。

ただ頭が理解するのと身体が実際に出来るのとは違いますので日々の意識の積み重ねしかありません。私ももちろん良く出来ません。

関節との連動

膝を使いなさいと云っても膝関節だけを使ったらたちまちのうちに故障することでしょう。
その部分だけを使うのではなく、右図のように各関節を筋肉のアシストを得て上下のつながりを作り出すことによって、各部分が連動して動くことができます。

下半身だけ見ても大きく分けて足首、膝、股関節と3つの関節がありますが、それぞれの関節と筋肉部分を含めたつながりが一体感を作り出しています。
具体的に言うとふくらはぎ等のすね部分や太もも部分を今以上に意識してみると動きが格段に改善されると思います。
特に太ももからから骨盤、背骨とつながる腸腰筋と呼ばれる筋肉はきわめて重要です。


皆様ご存知のように筋肉はある程度年齢が行った方でも鍛えれば発達すると言います。
努力すればそれ相応に答えてくれるのが筋肉ですので、繰り返しのエクササイズによってしっかり可動域と粘りを作り出し、それを維持して行くことを心がけて行きたいものです。

内臓感覚

これは少し上級レベルになりますが、良く”内臓で踊りなさい・・”と言われた方もおられることでしょう。
これはなにも内臓が筋肉の替わりをして働くという訳ではなく、ボディの深いところの中心部の筋肉(インナーマッスル)を積極的に使いなさいということに他なりません。

外側の筋肉(アウターマッスル)は云わば最中(もなか)の皮の部分に当たります。その外の部分だけを使うことは筋肉の鎧をまとったようであり動くのに実に不自由なものです。
あんこに当たる部分すなわち中心に近い部分が動きだすことによって、中心から遠い部分も自然に動き出して行くことができます。

内臓感覚とは中心感覚と言いかえることも出来ます。

 骨の意識

実際には筋肉が働くのですが骨を意識すると分かりやすいことがあります。
例えば“丹田“といっても意識しにくいですが、私などは”骨盤の骨で踊る”感覚のほうが捉えやすいです。
各部「骨を立てる」「骨で踊る」を試しても良いかな・・とは私の感想です。


























○・・柔軟



×・・固く見える



























赤い部分がインナーマッスル

骨盤からみぞおちにかけての腸腰筋
胸の周りの呼吸筋
肩回り、首回り等々がある



片方のみ・・不可


両側・・OK

曲げる・・内側収縮、外側伸びる


反対に曲げる・・上と逆になる

対になって働く(関節)


身体中の筋肉の働きはとても複雑で私も良く分かりませんので、以下の表記はあえて単純な構図にしてみました。

身体の各部がパワーを発揮するのは筋肉が対で働くからだと考えています。
図のように両側にバランス良くあってこそで、片側だけの筋肉では成立しません。

左図のような関節があったとします。
これを曲げようとすると内側の筋肉が収縮し外側の筋肉が伸びますね。
この時パワーを発揮するのは収縮する方の筋肉ですので充分に縮んで力を発揮してもらいたいものです。
一方の伸びる方の筋肉は積極的にはパワーになりません。

ただ縮む筋肉に抵抗しないよう釣り合って伸びることにより、縮む側の筋肉をアシストしています。


反対へ曲げる時はこれが逆になります。
それぞれがよく伸びよく縮めばその関節の可動域は大きくなるのは言うまでもありません。
その為にストレッチは大切です。
伸ばすのと同時に縮めることも意識すると良いと思います。

努力は裏切りません・・・私も日々努力しています。



1. 腸腰筋
2. 腹斜筋
3. 多裂筋
4. 脊椎起立筋


背中のインナーマッスル:多裂筋

対になって働く(体幹)

何もボディ部分だけの話ではないのですが、代表的な部分として例にあげます。

きれいなシェイプを作るためには背筋側をしっかり縮めてあげることが大切ですが、同時に前側もしっかりと効かさないと一方的に後ろにそっくり返ってしまいます。

この対になって働く感覚を知るうえで腕や脚は骨のまわりの筋肉の存在を外から触ってすぐに確認することができるので理解しやすいです。

でも背骨となりますと背筋はさわればその存在はわかりますが、右の図のように背骨を反対側で対になって支える筋肉はなかなか感じることができませんね。

いわゆるインナーマッスルと呼ばれる部位ですが、これが有効に働かないと強い背筋に押され背骨が前側に抜けてきます。

前側が開き後ろ側の軟骨がつぶれて腰痛の原因にもなりかねません。

ダンスにおいても特に女子に多いそっくり返りすぎの原因にもなります。

もちろん腹筋も一定の働きはすると思いますが図で少し離れた左側に点線で表したように、その間に内臓があるものですから直接的には効いてきません。

やはり直近のインナーマッスルと背筋のコラボによって体幹のしなやかな動きと強さを手に入れたいものです。

インナーマッスルの強化には後述する腹式呼吸が最適と考えていますのでご参照ください。




腰椎の前側の大腰筋(まとめて腸腰筋とも言う)
後ろ側の多裂筋








前と後ろのバランス


腸腰筋が弱いと背骨の
隙間がつぶれやすい


背骨を両側から支える
左に離れているのは腹筋

柔軟性を得る

シュワルツェネッガーの話

アーノルド・シュワルツネッガーのすごい筋肉、機関銃を持たせたらピタッと決まりますね。
でも映画のシーンでタンゴを踊っていましたが、お世辞にもうまいとは言えませんでした。

ダンスにとってはパワーショベルのように単純に重量物を動かす力は要らないし、太すぎる筋肉がかえって動きの邪魔をすると思います。
スポーツでも水中、陸上、氷上、体操、球技など、更に種目ごとに細分化しての身体作りが必要ですが、ダンスも当然それに合ったトレーニングが良い訳でやみくもに筋肉を鍛えても無駄になる事もあります。
全くの私見ですが私のように筋肉の固い人間は、鍛える前に今ある筋肉を解放して100%稼働させることの方がまずは大事だと思っています。
その後鍛えればより効果はあがると云うイメージで取り組んでいます。

ダンスで言えば例えばスポーツカーのようにパワフルで且つ細かい動きに対応できる機敏さや繊細さが必要なところです。

もちろん基礎的な部分の筋肉はあったほうが良いので、もしウェイトトレーニングなどするんでしたら軽いウェイトで回数を多くするなど方法を考えたほうが良い点でしょう。

バレリーナの話

その点バレリーナの腕のしなやかさはうらやましい限りですね。同じパーツの数でありながら何でそんなに柔らかく動くのでしょうね。
以前TVで見たあるバレリーナの話が記憶に残っています。

その方は日本の若手のホープの方で満を持してヨーロッパへとバレエ留学をしたそうです。
その期待のレッスンのはじめにコーチャーにこんなことを言われたそうです。

”足の外側の筋肉を内側に移動しなさい”・・・??その時は全く分からなかったそうですが、レッスンを重ねて行く上でだんだん理解できたそうです。
私なりの解釈ですが骨の反対側まで筋肉を寄せて行く気持ちで使い切ればより柔軟性が増し、スピードやパワーがアップするということでしょうか。

大谷翔平の話

メジャーリーグにて二刀流で大活躍の大谷選手ですが、あるインタビュー記事でこのようなことを言ってます。

「バッティングは筋力が大きくなれば、単純にボールに対して負けない力が加わるので打球を飛ばすことができる」

「ピッチングについては、筋力が上がったからといって球速がとてつもなく上がるという実感はない。
身体の使い方が大事になるし、その中でボールのキレを出していくことの方が大切。
ただ筋力の増加によって例えば100%の力で160キロを投げていたのが、80%の力でもコンスタントに160キロを出せる感覚はある」
ピッチングは高次元の繊細なバランスが必要のようです。

ダンスもピッチャーのように高次元のフィジカルの強さと繊細さが必要だと思います。
やみくもに筋力増大を図れば良いというものでもないです。



普通

しなやかに見える

関節も同じ


普通の腕

小さな円、大きな円

































青い部分がファシアの層

ファシア・網目状のコラーゲン
組織で伸縮性に富む

柔軟性を得る

柔らかく見せる

フリーアームを例にとりますと左の図のように関節から関節の間はほぼまっすぐですがその状態だと全体としては折れて見えます。
そこで途中部分の筋肉を内から外へ移動させるというようなイメージでトレーニングするとけっこういい感じに柔らかく動いてきます。

手のひら部分もそうですね。
全体として大きな風船や部分として小さな風船を抱えるイメージが良いと思います。
ニーバックする脚部、インナーマッスルの使い方等どこもかしこも同じことがいえます。
反対側まで使い切る意識を持てれば…。

動かない部分をより可動域を広げる為のトレーニングも大事ですが、通常動かしている範囲をよりスムースに動かしやすいように繰り返しのトレーニングも大切なことだと思います。
私の理想は身体の形をしている外袋に詰まった液体・・・骨も筋肉も関節も血管も全てカオスの状態の感覚ですかね。
私もちゃんと出来ませんが、それでも繰り返しトレーニングを重ねるしか方法はないんです。

筋肉を移動すると言っても目で見える程動くものではありません。
説明図はあくまでイメージですので、そういう気持ちで・・ということです。


省エネ

関節の可動域を広げることは大切なことでどなたも理解できることですが、それと同時にもう一つ大切なことがあります。
それは日常動かしている範囲内での筋肉を更に楽に動かすことです。

動かない筋肉を無理やり動かそうとしても身体が歪むだけですので、普段から楽に動くように準備することです。

脚でも腰でも腕でもあらゆるところに言えますが、今までそれを10の力で動かしていたとしたら半分の5の力で動かせれば燃費は半分、実に楽になりますね。
脚を強くと言われて腕まで力が入ってしまう・・・なんてことも少なくなりそうです。
これは実にうまい話ですがただ念じても得られません。
日々繰り返しブラブラと動かして筋肉を緩めるだけの簡単な方法だけでも試してみてください。
努力といったら継続することだけです。

ダンス上達の為に皆さんテクニックを学ぼうとされますが、並行して身体造りも怠らないようにしたいものです。
若い方がいとも簡単に追い越して行くのは、表現する自由な身体があるからです。
それを羨んでも始まりません。
100回練習しても上手く行かない動きでも、自由に動く身体さえあれば1回で易々と表現できてしまいます。

個人的な考えとしては練習の半分の時間を身体造りに費やしても良い】とさえ思います。
努力は裏切らない・・と信じていますし、凡人の私にはそれしか道はありません。

ファシア/筋膜リリース

最近のスポーツ生理学でファシアという概念が浸透して来ているそうです。
これは筋膜のことですが、筋肉だけではなくて内臓なども含む身体全体を包んでいる柔軟性のあるたんぱく質(コラーゲン)の膜組織のことのようです。

これが滑らかに動くことで身体の柔軟性が保たれるのですが、とにかくゆるゆる動かすことによってしか活性化出来ないと云うことです。

引き上げ

生きとし生きるもの全て重力に負けて下がって行きますが、逆に天に向かって伸びる力には生命力を感じますね。
この引き上げる力は躍動感を持って動くダンスには必要不可欠なものと考えています。

若いうちは努力しなくても備わっていますが中高年になるとたゆまぬ努力によって維持して行くことが必要になってきます。
お尻が重いと自覚されている方は少し骨盤引き上げのエクササイズを続けると効果的です。

体幹の引き上げ

骨盤が落ちると背骨も落ちるし頭部も下がるという悪循環を解消するために、筋肉を使っての仙骨から背骨の体幹の引き上げが大切になりますね。
わかりやすい感覚ですと「みぞおち」を締めてUPさせる意識が良いと思います。

背骨がUPすれば自然と頭もすっきりと上がります。
但しこの時両肩だけは下げる意識を強く持って下さい。

縮むことで力を発揮する筋肉を使って引き上げを行うには一方からではなく、両サイドからのバランスの良い作業が大切になります。

男子の方はある局面では女子を支えることもあるでしょうが、自身がしっかり引き上げていないと女子から見てふにゃふにゃと頼りなく、リードも伝わりにくくなります。
しっかりと身体全体のトーンを維持する必要があります。

また女子も同様に洗濯物のようにぶら下がっていれば良いというものでもありませんので、下半身で立ちしっかり自分を主張する身体の張りを持たせて下さい。
私などもかなり引き上げるようにはなりましたが、”もっともっと”と自分を鞭打っています。



体幹(ブルー)が引き上がる


骨格での表現
インナーマッスルを収縮することで
骨盤や背骨を両側からせり上げる


社交ダンスのあれこれ!
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