呼吸

「呼吸法」を10数年学びました。
奥深いものであってモノにはなりませんでしたが、ダンスを表現するのに今でも役にたっています。
理解できる範囲ですが参考程度に記しておきます。

呼吸の重要性

上達のコツ

私が ”ダンスの究極は呼吸に尽きると思いますね”と言うと皆さんエッ・・??といった顔をされます。
でもダンスって生命エネルギーの交流みたいな面があると思うのですが、その生命の大元は呼吸ですから関係大有りなんですね。
いくらスタイルが良くてもマネキンと踊りたい人はいません。
生身の人間が相手だから楽しい訳で、できるだけ生き生き(息、息)していたいものです。

古今東西スポーツや武術、芸能、職人さん等さまざまな世界で名人とか達人とか呼ばれた方達がおられましたが、皆さんそれぞれその分野に応じた独特の呼吸法を身につけていたと言われています。
”呼吸”と書いて”コツ”とも読むそうですから、ダンスの上達のコツはその辺にも隠されていそうです。

私事ですがこの数年縁あって国内プロ競技ダンスのビック大会を間近でじっくり見させていただいています。
私なりの着眼点の一つに”ボディのふくらみ”があり、それが空間の支配につながっているように見えます。それが呼吸だと感じています。

呼吸の始まり

太古の昔生命が誕生した時にはその生命体には単純な仕組みしかなく、ただ消化と呼吸のための器官しか存在しなかったそうです。
アメーバのような形だとイメージしやすそうですが、その後の進化の過程で広範囲の移動のための手段としての手足や、情報処理としての脳、陸上生活に対応した肺等が発達して今日に至る訳です。

複雑に発達した人体ですがその大元は消化器系であり丹田にあると言われています。
始原的な存在である丹田を意識した拍動するような呼吸こそが腹式呼吸と呼ばれるものですが、残念ながらこの呼吸は自然にはできません。
日々の練習の積み重ねの中から苦しくならない呼吸を会得するか、あるいは専門の呼吸法のトレーニングによって身に付けることになります。

一芸に秀でた人は他のことをやらせても飲み込みが早い・・・などと言われますが、飲み込んで腑(丹田)に落としてゆく呼吸の応用が効くからかもしれません。

浅い呼吸と深い呼吸
人は誰でも当たり前に呼吸をしていますがそれは生きる為の最小限のものであって、特に現代生活においては緊張することも多く、肩で息をする浅い呼吸になりがちです。
心身の安定と免疫力UPにも効果があると言われる、深い呼吸である腹式呼吸をすることがいかに重要であるかは、さまざまな方面の専門家によって繰り返し言われ続けています。

ダンスにおいてもこの腹式呼吸を意識することにより、内面からの深い表現がより可能になって来ることでしょう。
素敵なダンスの実現のためにも、今までよりは少しばかり呼吸に気を使うことをお奨めします。

余談

イタリアのルカ・バリッキさんと言えば一昔前のスタンダードワールドチャンピオンで今も広くご活躍の方です。
ピノなどと並んでパッショナブルな今のイタリアンスタイルの先駆けともいえる方と認識しています。
今はロシア人のダリアさんという方と結婚されてお二人で講習やデモをされています。
2017年お二人が来日された時のはなしです。
それまでもDVD(ダンスバイブル)などでおっしゃられてはいましたが、この時もとにかく内面を使って表現することを繰り返し述べておられましたし、デモンストレーションでも見事にそれを体現しておられ感動的でした。
まさに身体が生き生きと呼吸しており、やはり内面を使うことと呼吸は密接に関係・・というか同義語と言っても良いと思いました。
もちろんそれを実現する確かなスキルに裏打ちされたことであって、誰しもがすぐに出来ることではありませんが・・。
私などはまだまだ甘いものですが、目指す方向ははっきり見えた気がいたしました。













達人の呼吸




原始的なアメーバ




丹田からの拍動

腹式呼吸

胸式呼吸

腹式呼吸は健康に良いというコンセプトでいろんなメディアが取り上げていますが、ということは普段私達はそうではないということです。
普通は胸式呼吸なんですね(右の図)。

これは胸骨が広がることにより容積が広がり肺も膨らむというもので、どうしても胸の動きに影響をうける形で肩のほうも上下してしまいます。
結果その上に乗っている頭部も動くものですから目線がブレて安定しなくなりますので、特に球技なんかはかなりの影響を受けるのではないでしょうか。

ちょっと意識してみて下さい・・肺の上半分だけで吸っている気がしませんか?

腹式呼吸


それと違って腹式呼吸の場合は横隔膜の上下により胸の容積を調整していますので、肩や胸上部は静かで安定します(右の図)。
胸式が肺の上半分を使って浅い呼吸になっているのに対して、この時は肺の下半分も使って深い呼吸になっていることが実感できます。

その結果上部のこの微動だにしない安定は、即ホールドの安定にもつながります。
吐いた時は良くても吸った時に肩が上がりがちになりますが、この時ももちろん上がりません。

呼吸筋

心臓は筋肉でできていますので自力で動いていますが、肺は風船のようなもので独自に動かすことはできません。
そのかわり呼吸筋とも呼ばれる胸を取り巻く筋肉があります。
この呼吸筋が柔軟に働くことによって我々の生命活動は維持されています。

横隔膜もその重要な一部ですが、普段あまり意識されないこの横隔膜部分を積極的に使って行くことが腹式呼吸の重要なポイントとなります。
ダンスにおいてもこの横隔膜を意識することによって、ボディ部と胸部をシンクロしコントロールする感覚がより強く感じられると思います。

この呼吸は日々の繰り返しの練習の中で、自然に身につけて行くことが普通だと思います。
最初は苦しくてもだんだんに楽になって行きますので、練習は大切です。





胸式呼吸・・肩、頭部が動くのでスポーツなどでは好ましくない




腹式呼吸・・肩、頭部が安定する


腹式呼吸のイメージ
腰と骨盤底筋の意識




あるTV番組での丹田のイメージ





骨盤底筋のイメージ
肛門などを締める、引き上げることでインナーマッスルが働く












左側で立つ
黄色が呼吸の経路


右側で立つ

ダンスの呼吸法

丹田で吸うようにする腹式呼吸のイメージを図にしてみました。
実際はもちろん肺で呼吸しているのですが、丹田を意識することによって肺の深部(入り口から遠い肺の下半分)にまで空気を吸い込むことができます。
この深い呼吸によって身体の隅々まで酸素を巡らせることができ、生き生きとした活力のある肉体が実現できます。

一方では横隔膜が下がった分のスペースをお腹の部分で吸収してあげなければならなくなります。
ジャンルによって若干の違いはあるようでして中国の気功師はお腹の前を大きく膨らませていましたし、ある高名な女性ソプラノ歌手は腰のほうへ向けて内側から息を吐いて外へ膨らませるようにしてゆくんです・・と言っておられました。
同じ意味ですが有名女性スキャット歌手はやはり腰の後ろに息を溜めて行くんです・・と言っていました。

同じ腹式呼吸でも人によって感じ方はさまざまだと思いますので、ダンスの場合はこうです・・・などと一概に言うつもりはありません。
私の場合はどうしてるかをひとつの例として述べてみましたので、納得できるところは参考にしてみて下さい。
文字にしてみて上手く伝わればよいのですが・・・。

骨盤底筋 

まずダンスをする時にお腹はあまり出し入れしてもお相手のあることですからうまくないだろうということで腹筋を使ってしっかり締めます。
あと腰のほうへ向かっては内側から軽く吐いて行きますとインナーマッスルが効いて腰椎がシャキっと立ちますからこれは有効です。

そしてかなり大事な要素として骨盤底筋の意識があります。
ダンスでは皆さん肛門を締めろと言われると思うのですが、これも骨盤底筋の一部です。
この骨盤底筋と横隔膜とを意識で結びますと、ボディ部分がしっかりと安定します。
要するにお腹の周り全ての筋肉をを使ってあたかも心臓のように拍動させる感覚でしょうか。
ゴムまりのように吸っても吐いても弾力を失わないようにして、くれぐれも吸ったら抜けたとかいうことのないようにするのが肝要です。

そうしますと身体の中心いわゆるコアと呼ばれる部分をより感じ取ることができ、体幹も安定してきます。また脚部へのエネルギーの流れの意識も強くなり下半身がより安定します。

更に脚部へ

移動する時は片足体重になると申し上げました。
これが左足重心でも右足重心でも交互に継続して行われるために私の感覚としては左図のようなイメージを感じています。
左足で立つ場合は左の軸線に沿っての左ボディを使います。
この時の丹田は左側にあると意識します。

また呼吸は口から吸っているのですが、一方で足の裏からも呼吸をしているようにしますと下半身が安定を増し、全身がひとつの有機体として感じられます。
この足裏での呼吸を”足心(芯)呼吸”と言います。

元ラテンチャンピオンの織田組が ”床から水を吸い上げるイメージでボディをリフトアップしていくとボディトーンが感じられる” 旨のレクチャーをされていましたが同じルートを言われているものと考えます。


サポーティング側を意識することにより縦の軸はよりクリアーになる一方で、フリーレッグ側は完全に解放され全くフリーに動かすことができます。
右足で立つ場合も全く同様に考えます。

私の場合は脚と考えずに、腕のような軟らかさをイメージすると理解しやすい気がします。


エネルギーの循環

オープン系

人間生まれる時にはオギャーと泣いて息を吐き、最後は息を吐く力がなくなって死ぬそうです。
吐き切ればいくらでも新しい空気は入って来ますので、それによってエネルギーは循環します。

吐くことによって身体はオープン系になり外部に開放されますので、リラックス出来るのは皆さんご承知のとおりです。
ため息は幸せが逃げる・・などと言いますが、こと生物学的には身体のバランスを保つために必要な行為と言われていますよね。
吸う時は身体は逆にクローズ系になりますので内向きになります。
緊張して身構えるとおのずと身体は固くなりますね。
固唾を飲んで見守る・・などというシーンが続くと肩が凝ってしまいます。

ダンスはもとよりお相手とか周囲の方達とかとのコミュニケーションの場ですから、いわばエネルギーの循環でもあります。
そのためにはよりオープンに、すなわち息を吐くことを意識して行くことが重要になります。

エネルギーの循環

右の図は自分の中で完結するエネルギーの流れを表しています。
内気功などに代表されますように自分の身体の内面と対話する健康法としてもたいへん良い方法だと思います。
実際これをやる時は気が内面へと向けられますので外部への注意が希薄になります。
自分自身の満足感としてはありますがダンスの場合は相手もあることですから、自分の世界に入り込みすぎないように気をつけたい点です。

次の図は自分の周囲へのエネルギーの放射、そして会場内、大きくいえば宇宙までのエネルギーの循環です。
出せば出すほど循環して入ってきます。
これを大きく出せる人は他の人に訴えかける演技ができる人だと思います。

最後の図はパートナーとのエネルギーの循環で、ダンスにおいてはとても重要なものです。
ただ二人の世界に入りすぎると周りが見えなくなりますので、競技会などではジャッジや観客に対する発信も必要になってきます。


結論としてはこれらの要素を状況に応じてバランス良く出し入れできコントロールできる人やカップルが、自分でも満足し周囲にも優れたパフォーマンスを伝えられるのですね。


吐く・・・オープン

吸う・・・クローズ












内へのエネルギー循環

外へのエネルギー循環

相手とのエネルギー循環

吐く時に力が出る

長く吐いて吸うのは一瞬

水泳とか声楽、みなさんお好きなカラオケなどでもよいのですが、みんな息継ぎは一瞬であとは長く吐いていますよね。
ダンスも同じ、長く吐いて吸う時は一瞬です。
吐く時に身体はオープン系になりエネルギーが循環しますし、筋肉もリラックスして良く動いてくれてパワーも出ます。
カラオケでリラックスして楽しんでいる方がダンスで固まってギクシャクしているのはもったいない限りです。

ダンスにおいてはリードしようとかリードを受けようとか考えたとたんエイッとばかり力が入ってしまったり、ライズやロァーで息を詰めたりしてしまいがちですが出来るだけリラックスできるように心がけたいものです。
ただリラックスすることと、だらんと脱力することは違いますから、念のため・・。
又息を吐いてと言うとフーフーと浅い吐き方をしてしまいますが、これだと酸欠で頭がクラクラしてきますので気をつけてください。
あくまで深い呼吸の腹式を使ってください。

呼吸のリズム

ライズ、ロァー時についてですが原則で考えるとライズの時やロァーの時はパワーが必要ですから吐く、トップから下方に移る瞬間などは無重力状態のようで楽ですからその時吸えば良さそうに思いますが、私自身必ずしもそうやっていないと思います。
そうするとかえって苦しくなります。
それは多分自分の呼吸のリズムや長さがあるからなのでしょう。

人によって異なる呼吸のリズムを、いろんなテンポの曲に当てはめて行くことはかなり違和感を感じることなのだと思います。
息継ぎはどこでしても良いので、練習の中で自分にあった無意識で楽にできる呼吸のタイミングを見つけていってください。
そして二人の呼吸のタイミングが合った時、それを”息(呼吸)がピッタリ”と表現します。

インナーマッスルをイメージする

アウターマッスルが軟らかい人は外側からでも容易にインナーマッスルを感じ取れるし、アプローチが出来るのかも知れませんが、私のように身体の固い人間はなかなか想像することすら困難なことです。
マッサージのプロを以ってしてもインナーマッスルまでには辿り着けずご苦労をかけている有様です。

そこでもう一つの方法として”呼吸=身体内部に気を通す”方法で内部からアプローチを試みています。
直接的に働きかけようと云う訳ですがなにぶん感じ取りにくい部分なだけに効果があるような無いようなまさに”気のせい”の域を抜けれません。
成果が出たらお知らせしたいと思っています。

 「追記1・2023.6」最近マッサージさんから表面の筋肉がだいぶ緩んできましたね…と言われるようになりました。そうするとその奥に固い部分が現れてくるので全くきりがありません。人からは柔らかいと言ってもらえるようになって来ましたので、努力が形になってきつつあるようですがまだまだです。

エネルギーを出す

パーティーダンスなどではお相手が心地よく踊れることが良いと思うのですが、競技ダンスともなればまったりと踊っていてもあまり目に入りません。
やはりエネルギーを強く発散していくことで評価してもらえると思うのですが、高齢者の不得意なところでもあります。
年齢とともにエネルギーは落ちていくのに、もっともっと…と必要になるのですから辛いところです。
せめてボディを強く使うようにはしていますが、疲れますしね…さてどうなるのでしょうか?


社交ダンスのあれこれ!
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